鋼材の切断には、様々な道具や電動工具が使用されます。
手工具では金切り鋸、電動工具ではディスクグラインダーや高速切断機、レシプロソーなどが用いられます。
今回は、鋼材の切断に使用される電動工具の中から、帯状のノコ刃を回転させて切断加工を行う ”ポータブルバンドソー” の構造と使い方について説明していきます。
ポータブルバンドソーとは?
”ポータブルバンドソー” とは、専用のソーブレード(帯状ののこ刃)を本体の2つのホイールに掛け渡し、ホイールの回転と共にソーブレードを高速回転させ、材料を切断加工する電動工具です。
主に鋼材の切断加工に使用され、固定した材料に作業者が保持したポータブルバンドソーを押し当てて加工します。
今回はマキタ製の充電式ポータブルバンドソー ”PB183D” を使用し、構造と使い方について説明していきます。
充電式ポータブルバンドソー ”PB183D” 各部名称
ソーブレードの脱着方法
ソーブレードの脱着は、必ずバッテリを取り外してから行います。(誤作動による事後を防ぐ為)
ポータブルバンドソー裏面2か所のツメを押し広げて、ホイールカバーを開けます。
表側のレバーを止まるまで回すとホイールが内側に移動し、ソーブレードが緩みます。
軍手等の手袋を着用したら、緩んだ古いソーブレードを外します。
新しいソーブレードを取り付ける前に、ホイールの矢印とソーブレードの矢印が同じ方向になっている事を確認しておきます。
ポータブルバンドソー開口部(ソーブレードが露出し、材料を切断する場所)の両側にソーブレードを保持するためのホルダがあります。
ホルダのベアリングの間にソーブレードを差し入れ、奥のベアリングに当たるまで押し込みます。
ソーブレードの中央付近を抑えながら、両側のホイールにソーブレードをかけます。
ソーブレードの刃先がホイールのラバータイヤ部分にかかる位置まで、押し込みます。
表側のレバー位置(ソーブレードが緩んだ状態)から矢印方向に止まるまで回し、ソーブレードを張ります。
ホイールカバーを閉じたら、バッテリを取り付けスイッチを何回か入り切りし、ソーブレードがホイールからずれたり外れたりせず安定して回転している事を確認します。
※スイッチに関しては、後述のスイッチ操作の項目を参照してください。
ソーブレードの軌道調整方法
ソーブレードがホイールから外れ易い場合は、レバー横の調整穴に付属の六角棒レンチを挿入し、回転させてソーブレードの軌道を調整します。
時計回りに1/4回転させたらスイッチを入れ、ソーブレードのずれを確認します。
まだソーブレードがずれたり外れたりする場合は、さらに1/4回転させ確認し、軌道が安定するまで繰り返し調整します。
ストッパプレートの取り付け位置
ポータブルバンドソーは、ストッパプレートを材料に押し当てながら切断加工していきます。
ストッパプレートはソーブレードに対して直角に設置されており、材料に押し当てて密着させることでポータブルバンドソーの安定性を高め正確な直角切断を可能にするパーツになります。
ストッパプレートは、六角穴付ボルトで本体に固定してあり、取り付け位置を上下方向に調整する事が出来ます。
通常の使用では、取り付け位置を一番下の位置に固定して加工作業を行います。
ただし、加工途中にストッパプレート下端が何かに干渉して切断が完了しない場合には、付属の六角棒レンチでボルトを緩めストッパプレートの位置を調整・固定して加工作業を行います。
サイドグリップの取り付け
サイドグリップは、本体レバー横のネジ穴にねじ込んで取り付けます。
サイドグリップを取り付け本体を両手で保持する事で、切断加工の正確性と安全性を高める事が出来ます。
スイッチ操作・スピード調整ダイヤル
電源スイッチは、ロックオフボタンを押しながらスイッチの引金を引くと入ります。
ロックオフボタンは両側どちらからでも押し込むことが出来ます。
スイッチの引金を離すと電源が切れ、同時に自動でロックオフボタンが戻り、引金が引けない状態になります。
電源スイッチを入れた状態(引金を引いた状態)でロックオンボタンを押し込むと、引金が引かれた状態で固定され、連続運転が出来ます。
連続運転中に再度引金を引くと、ロックオンボタンが戻り、連続運転が解除されます。
マキタのポータブルバンドソー ”PB183D” には、”スピード調整ダイヤル” が付属しており、切断する材料に適した回転速度に調整することが出来ます。
ポータブルバンドソーによる切断加工のやり方
単管パイプ(外径48.6mm 厚み2.4mm)の切断を例にポータブルバンドソーによる切断加工のやり方を説明していきます。
ポータブルバンドソーは基本的に両手で本体を保持し切断加工を行うので、切断する材料を万力等で水平になる様に固定しておきます。
切断時に熱い鉄の粉が出るので、やけど防止の為に軍手等手袋を装着しておきます。
切断材料(単管パイプ)に触れない位置で、スイッチを入れ、ロックオンボタンを押し込み連続運転状態にします。
ソーブレードの回転が安定したら、ストッパプレートのみ単管パイプに押し当てます。
ストッパプレートを単管パイプに押し当てながら、本体前方を徐々に倒し込み、ゆっくりと衝撃が起こらない様に切り込んでいきます。
切断し始めたら、ストッパプレートを単管パイプに押し当てながら、本体の自重を利用し下方向に軽く押し下げていきます。
切断の途中で、本体を無理に強く押し下げたり、左右に動かしソーブレードをこじたりすると、切断面が曲がったりソーブレードの破損につながるので絶対に行わないでください。
切り終える間際になったら、本体を持ち上げ気味によりゆっくり丁寧に切断していきます。
ディスクグラインダーや高速切断機は円形の砥石を使用している為、鋼材の切断時に火花が発生するなど、作業に細心の注意が必要になります。
ポータブルバンドソーはレシプロソー同様ノコ刃による切断になる為、熱い切粉が出ますが、火花が発生せず比較的安全に鋼材の切断加工が出来ます。
ソーブレードの選定方法
ソーブレードは、切断する材料の種類や厚みに適したものを選定します。
基本的に、材料の厚みが厚い場合はノコ刃の山の粗いブレードを使用、薄い場合は山の細かいブレードを使用します。
また、材料にソーブレードを当てた時、ノコ刃の山が2山以上かかるブレードを使用する様にします。
材料にかかるノコ刃の山が1山の場合、切断開始時の衝撃が強くなり、ブレードの破損等につながる為危険です。
ソーブレードの当て方と材料の向き
ポータブルバンドソーは様々な形状の材料を切断出来ますが、切削時の衝撃・抵抗を抑えスムーズな切断加工をする為にはソーブレードの当て方・材料の向きに注意が必要です。
切断始めにソーブレードをいきなり材料と平行に当て真下に切削していこうとすると、切削面(ソーブレードと材料の接地面)が広くなる為、切削抵抗が強くソーブレードも横滑りしやすくなります。
切断始めは、本体(ソーブレード)を手前に傾け気味にしながら材料にストッパプレートを押し当て、ストッパプレートと材料の接地点を支点に、徐々に前方に本体(ソーブレード)を傾けて切削していくようにていくようにします。
そのように徐々に切削面が広がっていくようにすると、切削始めの衝撃を抑え、切削位置のガイドとなる溝をはじめに付けることも出来るのでブレードの横滑りなくスムーズな切断加工が可能になります。
ソーブレードは、切削面(ソーブレードと材料の接地面)が狭いほどノコ刃の山が引っ掛かりやすく、切断時の衝撃・抵抗が強くなり、切断面も荒れがちになります。
本体を前方に倒し込みながら切削し始めたら、徐々に切削面が広がっていくように材料の向きを考え固定しておく必要があります。
平鋼の様に薄い材料の場合、側面を立てて切断しようとすると切削面が狭いままで切削抵抗が大きくなってしまうので、広い面を水平になる様に固定して徐々に切削面が広くなる様にします。
アングル鋼の場合も、端部を上側に固定し切断すると切削面が狭いので、外側を上側になる様に固定し切削していきます。
ソーブレードの回転速度
ソーブレードの回転速度もスムーズな切断作業には重要なポイントです。
今回紹介したマキタのポータブルバンドソー ”PB183D” にはスピード調整ダイヤル(ダイヤルは1~6まである)が付属しており、1から6に回すにつれソーブレードの回転速度が高速になっていきます。
ステンレスや硬鋼材、分厚い鋼材などは低速回転による切断が適しており、薄い鋼材は高速回転による切断が適しています。
カッティングワックス
”カッティングワックス” は、金属材料切断時の潤滑用ワックスで、ソーブレードと材料の摩擦を軽減し切断を滑らかにしてくれます。
ソーブレードと金属材料の摩擦が軽減するので、切断時の発熱を抑えソーブレードの耐久性も高める事が出来ます。
カッティングワックスは蓋を取り万力等で固定したら、ポータブルバンドソーでケースごと切り込んでソーブレード刃先に塗布します。
(カッティングワックスを必要以上に多量に塗布したり鋳鉄の切断時に使用すると、ソーブレードが横滑りやすくなり危険なので、そのような塗布・使用は行わないでください)
切断可能材料
ポータブルバンドソーの切断可能材料には、鋼材と呼ばれる鋼管・形鋼・平鋼・丸鋼、アルミ、塩ビ管、ステンレスなどがあります。
ポータブルバンドソーは解体現場でも使用され、電線やケーブル、既設管(ガス管・電線管)の切断も可能です。
まとめ
今回はポータブルバンドソー(マキタ製充電式ポータブルバンドソー ”PD183D” )の構造と使い方について説明しました。
ポータブルバンドソーは、ノコ刃による切断加工になる為、火花(ディスクグラインダーや高速切断機の使用に発生)が発生することなく作業できます。
ただし、帯状のノコ刃の特性上(ノコ刃のしなりがある)適切な力加減での操作を行わないと、横方向にブレが生じやすく、正確な切断加工が出来ません。
切削抵抗を考慮した向きに材料の固定をしたら、適切なソーブレードを使用し、適切な操作(ソーブレードの回転数の調整・ソーブレードの当て方・本体の動かし方等)をするようにしてください。
今回使用したポータブルバンドソーは、こちらになります。
参考にしてみてくださいね。