引き出し(抽斗)はあらゆる家具に付属していて、一番見慣れている入れ物ですよね。
しかし実際DIYで引き出しを作ろうとすると、上手くいかない事が多くないですか?
スムーズに出し入れが出来なかったり、がたつきが酷かったり・・・。
一見簡単に出来そうで、実は上手に作ろうとすると難しい引き出しについて、構造と種類、作り方を説明します。
引き出しの各部名称
引き出しは、前板・側板・向こう板(先板とも呼ぶ)・底板と呼ばれる各部材で構成されています。
前板は狂いが無く外観の良い木材、側板・向こう板(先板)には狂いの少ない軟材、底板にはシナなどの合板が使用されます。
引き出しを仕込む先の部材の名称として、
- たな口ざん
- すりざん・つりざん
- つか
があります。
たな口ざん➩引き出し下に位置し、側板・中仕切り板などに挟む形で固定する部材。
すりざん・つりざん➩引き出しを滑らせるための部材。側板・中仕切り板の側面に固定する。
つか➩引き出しを横に2つ以上並べる場合に間に固定する部材。
引き出しの構造
前板と側板の接合
前板と側板の接合方法によって大きく2つに分けられます。
前板と側板を直接接合(接ぎ手・ダボ・ビスなどによる接合)するタイプと、引き出しの箱部分を作り上げた所に前板を接合(ビス等による接合)するタイプがあります。
前板と側板を直接接合するタイプは、引き出しとしての箱を正確に作ることは勿論ですが、仕込む先(すりざん等)の精度が要求されます。
引き出しが前板と一体化した箱になっているため、すりざん等のズレの影響が外観(引き出しが収まっている状態での前板の位置)に出てしまいます。
箱部分を作り上げた所に前板を接合するタイプは、仕込む先が多少精度が良くなくても後から前板の位置を調整出来るので、外観を綺麗に仕上げやすくなります。
側板・向こう板の接合
向こう板は側板で挟むようにしてビス等で接合します。
引き出しの滑りを考慮する為、向こう板(先板)の木口を出す接合はおススメしません。
底板の取り付け方
底板の取り付けは、前板・側板・向こう板の下部にトリマーなどで溝をほり、その溝に底板(主に5.5mm厚のシナべニアなどが使用されます。)を差し込み、引き出しを組み上げる事で収まります。
引き出しの外側に溝などが露出しないのできれいに仕上がります。
向こう板の裏側は、普段引き出しを使用する上で見える事は無いです。
向こう板の裏側に外観を気にすることなく、底板を露出させて固定する方法もあります。
向こう板の高さ寸法を短くし、下端を側板の溝の上端に合わせて引き出しを組み上げます。
側板・前板の溝に沿って底板を差し込みます。
底板の裏側から向こう板の下端に釘打ちし固定します。
向こう板裏面に底板が見える固定が出来ました。
ちなみに底板の木目方向は、側板と平行方向にするのが基本です。
前板の大きさ
前板の大きさによって家具前面の外観が異なってきます。
前板が仕込む間口と同じ大きさの引き出しは、側板やたな口ざん、束などが前面に見える仕上がりになります。
前板を仕込む間口より大きくする(前板の大きさを上下左右に伸ばす)引き出しは、側板やたな口ざん、束などを隠す事が出来、スッキリとした外観になります。
引き出しの仕込み方法
すりざんによる仕込み
たな口ざんを側板や中仕切り板にダボ等で固定し、すりざんを側板や中仕切りの側面に釘などで固定します。
たな口ざんの上端とすりざんの上端が面(つら)になる様にします。
引き出しの側板下端がすりざん上を滑る事によって、出し入れをする仕組みになります。
つりざんによる仕込み
仕込み先の側板や中仕切り板の側面につりざんを釘等で取り付けます。
引き出しの側板につりざんの幅の溝を掘ります。
引き出しの溝をつりざんに差し込み、滑る事で出し入れをする仕組みになります。
つりざんによる仕込みは基本的にたな口ざんを必要としないので、机などの一段だけの引き出しに多く見られます。
スライドレール
スライドレールとはボールベアリングやローラーが組み込まれたレールが引き出しの出し入れの機能を担ってくれる金物です。
スライドレールは2つのパーツ(インナーレールとアウターレール)に分かれます。
引き出し側板の側面に取り付けるレール(インナーレール)と、家具本体の側板・仕切り板等に取り付けるレール(アウターレール)それぞれをビスで固定します。
引き出し側のレールを仕込み先のレールに差し込んでレールどうしを連結すると、前後にスムーズに動くスライドレールの取り付けが完成です。
スライドレールに関して詳しくは、スライドレールの種類と取り付け方法とは? の記事を参照してください。
引き手の種類
引き手金具を取り付ける
引き手金物は様々な種類があります。
材質は金属や木が用いられ、ハンドルやツマミなど色々な形状の物があります。
前板にビス止め・ネジ締めなどで取り付けます。
前板を加工して手がかりを作る
引き手金具を取り付けず、前板を加工して手がかりを作る方法があり、
- 前板の上端や下端を伸ばし、斜めに欠き取ったり、トリマーなどで溝ほり加工などをし、手がかりとする。
- 前板に穴をあけて手がかりとする。
などです。
小さく浅い引き出しの場合は、前板の高さを低くしたり、前板の上端を欠き取る事で引き出し内に手を入れることを可能にし、前板を手がかりにする事が多いです。
引き出しの作り方
ミニチェストの引き出しを例に、仕込み方の違いごとに作り方を説明します。
引き出しの箱部に前板を取り付ける方法で、ミニチェストの天板・地板・側板が見える仕上がりになります。
- 箱部(前板・側板・向こう板) ファルカタ集成材 幅90mm×厚み13mm
- 底板 シナ合板 5.5mm厚
- 前板 ラワン合板(12mm厚)の表面に オーク突き板合板(3mm厚)を接着➩前板の接着(ラワン合板とオーク突き板合板)のやり方は北欧風ミニチェストをDIY。箱物家具の作り方、お教えします。のミニチェスト部材の接着のやり方と同じです。
すりざん
あらかじめ、たな口ざんは側板にダボなどで固定し、すりざんをたな口ざんと上端が合う様に釘やビスで側板に固定しておきます。
すりざん・たな口ざんは引き出しが滑りやすい様に角を面取りしておきます。
前板・向こう板の寸法調整
箱部の側板は所定の寸法で用意しておけるのですが、前板・向こう板の長さは実際の仕込み先の間口寸法に合わせて決めていきます。
ミニチェストの間口寸法を測り、箱部の横幅寸法を決めます。
間口寸法ぴったりに箱部の横幅を決めてしまうと、引き出しの出し入れが固く困難になってしまいます。
箱部の横幅を間口寸法より短くし、引き出し側面とミニチェストの間に隙間を作ることで、引き出しをスムーズに出し入れ出来る様になります。
箱部の横幅の目安は、実際の間口寸法より前板側が1mm程度、向こう板側が2mm程度短くします。
箱部を台形にする事により、引き出しが入れやすく、きっちり収まります。
実際に前板・向こう板・側板を間口にはめ込んで確認しながら、前板・向こう板で箱部の横幅を調整します。
底板の寸法と溝加工
引き出しの底板は5.5mm厚のシナべニアを使用します。
引き出しの内側の下方に溝をほり、底板をはめ込みます。
底板を5mmはめ込むので、底板寸法は箱部の内寸の長さ・幅をそれぞれ10mmほど大きくした寸法になります。
溝はトリマーにストレートガイド・ストレートビット6mmを装着し、箱部の下端から10mm程度の位置に溝をほります。
溝の深さは5mmピッタリだと、底板が収まら無くなる可能性があるので、6mmにします。
トリマーを使用した溝加工に関しては、トリマーの使い方と構造について詳しく説明します。 の記事を参照してください。
溝ほり加工が完了したら、部材の角を面取りし、箱部部材の出来上がりです。
箱部組み立て・仕込み
側板と前板・向こう板を、底板をはめ込みながらビス止めしていきます。
ビスの頭は側板面より少し沈めておきます。(ミニチェストの側板とすり合う箇所の為)
出来あがった箱部を実際にミニチェストへ出し入れしてみて不具合が無いか確認します。
前板を箱部に取り付けていきます。
箱部の内側からビス止めしていきますが、はじめからすべてのビスを止めることはせずに、2ヶ所ほど止めます。
前板が仮止めされている状態で引き出しを入れて、前板の傾き・上下左右の隙間を確認します。
前板の位置の調整が必要な場合は、まだ止めていないビスを使って修正していきます。
前板に下穴をあけ、引き出しの取っ手をネジ留めします。
すりざんの引き出しの完成です。
つりざん
側板の所定の位置につりざんを釘等で取り付けます。
基本的にすりざんにはたな口ざんは必要ないですが、今回の引き出しは前板がたな口ざんに当たって止まる構造なので、上下にたな口ざんを取り付けます。
つりざんの角は面取りしておきます。
側板につりざんの溝ほり
引き出しの側板の外側中央にすりざん用の溝ほりをします。
トリマーにストレートガイド・ストレートビットを装着し、つりざんの幅寸法より1~2mm程度大きめの溝をほります。(引き出しの滑りを考慮)
前板・向こう板の寸法調整
前板・向こう板の寸法調整はすりざんの仕込み方と同じです。
実際に前板・向こう板をはめこんで確認します。
底板の寸法と溝加工
寸法設定・溝加工共にすりざんの場合と同じです。
箱部組み立て・仕込み
すりざんと同じように箱部を組み立てたら、実際にミニチェストへ出し入れしてみて不具合が無いか確認します。
すりざんの仕込みと同じ様に前板・取っ手を取り付けたら、つりざんの引き出しの完成です。
スライドレール
箱部の大きさ
スライドレールの厚みを考慮して箱部の寸法を決めます。
仕込み先の間口寸法から両サイドのスライドレールの厚みを引いた長さが箱部の幅となります。
すりざん・つりざんの場合と違って、箱部は台形にする必要は無く、前板・向こう板は同じ寸法で用意します。
すりざん・つりざんの引き出しに比べ、箱部の大きさがスライドレールの厚み分小さくなります。
底板の寸法と溝加工
すりざん・つりざんと作業内容は同じです。(底板寸法はすりざん・つりざんに比べ小さくなります。)
箱部組み立て・スライドレールの取り付け・仕込み
箱部をすりざん・つりざんと同じように組み立てたら、スライドレールを取り付けます。
スライドレールには様々な種類があり、引き出しが側板の下端に取り付ける物もありますが、必ず左右の高さを同じにし、平行に取り付ける事が重要です。
引き出し側板とミニチェスト側板にそれぞれレールをビスで取り付けます。
引き出し側板に取り付けるレールの先端は前板を取り付ける面とつらになる様に、ミニチェストの側板に取り付けるレールの先端は前板の厚み分うしろに下げて取り付けます。
スライドレールを取り付けたら、実際に引き出しを出し入れして仕込み具合を確認します。
すりざん・つりざんの仕込みと同じ様に前板・取っ手を取り付けたら、スライドレールの引き出しの完成です。
スライドレールに関して詳しくは、スライドレールの種類と取り付け方法とは? の記事を参照してください。
まとめ
今回は引き出し(抽斗)の構造と種類、作り方について説明しました。
身近な引き出しですが、様々な種類や仕込み方があります。
引き出しを作る際のポイントは、中に入れる物のサイズと外観(デザイン)をどのようなものにするかです。
中身のサイズが決まれば、引き出しの寸法を決めることが出来、外観を決める事により引き出しの前板の形状を決めることが出来ます。
引き出しの大きさと引き出しの収まるスペースのバランスを考えて仕込み方法を決めたら、部材を用意し作り上げます。(はじめのうちは引き出しのズレなどを調整出来る作り方を選んだほうがいいでしょう)
参考にしてみてくださいね。