家具には欠かせない構造の引き出し。
引き出しのスライド部分には様々な仕組み(すりざん・つりざん・金物)が用いられます。
今回はスライド部分に使用される金物、”スライドレール” について、種類と取り付け方法について説明していきます。
スライドレールとは?
”スライドレール” は、引き出しの出し入れ機能を担う金物で、引き出しのスムーズな動きを可能にし脱落を防ぐ事が出来ます。
スライドレールは、引き出し側に取り付ける部品(インナーレール)と、家具本体側(本体の側板・仕切り板・地板・天板など)に取りつける部品(アウターレール)に分かれます。
(価格の安いスライドレールには、一体型になっている物もあります。)
引き出し側・家具本体側それぞれに部品(インナーレール・アウターレール)を取り付け、引き出し側(インナーレール)を家具本体側(アウターレール)へ差し込んでレールを連結します。
スライドレールの種類
ベアリングタイプ・ローラータイプ
スライドレールは可動部分の構造により、”ベアリングタイプ” と ”ローラータイプ” に分けられます。
ベアリングタイプ
ベアリングタイプのスライドレールは、等間隔に配置されたボールベアリングの働きにより、スムーズな開閉と強度に優れています。
ベアリングタイプには、2段引きと3段引きがあります。
2段引きはインナーレールとアウターレール、3段引きはインナーレール・中間レール・アウターレールの組み合わせになっています。
2段引きはインナーレールとアウターレールの2つのパーツで構成されているので、使用時(組み合わせ時)のレールの厚みが薄くなり、その分引き出しを大きく(幅方向)作る事が出来ます。
3段引きは、中間レールとインナーレールが連動して移動することにより、スムーズな動きで引き出せる距離が大きくなります。
ローラータイプ
ローラータイプのスライドレールは、インナーレールとアウターレールそれぞれの端部に取り付けられているローラーの働きによって、引き出しの開閉をスムーズに行うことが出来ます。
ベアリングタイプに比べ、開閉時のレールの滑り(引き出しの開閉)が軽くなります。
ローラータイプのスライドレールは引き出しを脱着する際、アウターレールに対し引き出し(インナーレール)を上側からはめ込む・上側へ押し上げて外す様にします。
脱着時にインナーレールのローラーの大きさ分引き出しを持ち上げるので、家具本体側天板と引き出し箱部分の上端の間隔が狭まります。
脱着時に天板と引き出し上端が干渉しない様に、引き出しの深さを浅く(引き出し上端を下げる)しておくことが必要です。
引き出しを水平に脱着するベアリングタイプに比べ、深さが浅くなります。
ローラータイプのスライドレールには、引き出しの右側取付用と左側取付用があり、逆にして使用は出来ないので取り付け時に注意が必要です。
スライドレールの材質
スライドレールの材質には、耐食性に優れたステンレス製、種類が多く一般的に広く使用される鋼製、軽量化が必要な箇所に使用されるアルミニウム合金製、量産家具に使用されるプラスチック製があります。
スライドレールの取り付け位置
スライドレールの取付位置によって、”横付けタイプ” ”底付けタイプ” ”底引きタイプ” ”上吊りタイプ” に分けられます。
横付けタイプ・底付けタイプ
最も一般的に用いられる取付位置は ”横付けタイプ” で、引き出し側板の中央付近にインナーレール、家具本体側(側板・仕切り板)にアウターレールを取り付けます。
”底付けタイプ” は、引き出し側板の下部、または側板よりの底板にインナーレール、家具本体側(側板・仕切り板)にアウターレールを取り付けます。
底引きタイプ
”底引きタイプ” は、引き出しの底にスライドレールを取り付けるタイプです。
インナーレールを引き出し底裏面に、アウターレールを地板に取り付けます。
スライドレールが引き出しの底に取り付けられているので、横付けタイプに比べ引き出しの幅を広く取ることが出来ます。
上吊りタイプ
”上吊りタイプ” は、アウターレールに連結しているL型の金具を天板の裏側へ、インナーレールは引き出し側板へそれぞれ取り付けて使用します。
パソコンのキーボードを収納する引き出しなどに使用されます。
スライドレールの移動距離
スライドレールには、インナーレールの移動距離によって ”完全スライドタイプ” と ”3/4スライドタイプ” があります。
完全スライドタイプは、引き出しを全開した時に、インナーレール全長が完全に外側(アウターレール先端部より外側)に出ます。
3/4スライドタイプは、引き出しを全開した時に、インナーレール全長の3/4まで外側(アウターレール先端部より外側)に出ます。
完全スライドタイプは スライドレールの長さ=引き出しの移動距離 になり、3/4スライドタイプは スライドレールの長さの3/4が引き出しの移動距離 になります。
スライドレールの様々な機能
スライドレールには、すりざんやつりざんによる引き出しとは異なり、様々な機能が付属しています。
- 引き出しを閉める際に、最後まで押し込まなくても自動で閉まってくれる ”セルフクロージング機能”
- 前板を押し込むと自動で引き出しがひらく ”プッシュオープン機能”
- 開閉時のレール音を軽減する ”消音機能”
- レールを全開・全閉した際に、その状態を簡易的に保持する機能
などがあります。
スライドレールの取り付け方
ベアリング・横付けタイプとローラー・底付けタイプに関しては、チェストの上段箇所(天板・側板・仕切り板・地板に囲まれた場所)の引き出しに取り付ける方法を紹介します。
引き出しは、箱部分を組み立て、前板を取り付けるタイプになります。
ベアリング・横付けタイプ
引き出し本体側面にインナーレールを取り付けていきます。
引き出し側板の任意の位置(中央付近)にインナーレール取り付け位置の墨線を引きます。
墨線は側板下端から寸法を測り、位置を決め墨付けします。
インナーレールの中心線が墨線に合うように、インナーレールのビス穴から墨線を確認し、位置を調整します。
インナーレールの先端は、側板先端(引き出し前板側)と面になる様にします。
ビス止め箇所に千枚通しで印をつけ、インナーレールをビス止め・固定します。
左右のインナーレールの高さが同じになる様、正確に取り付けます。
アウターレールは家具本体側板に取り付けますが、家具の構造によっては組み立て後の取り付けが難しくなる場合があります。
今回は、家具を完全に組み立てる前にアウターレールを取り付けます。
通常引き出しの下端と地板の間隔は5mm程度取ります。
アウターレールの取付高さ(アウターレールの中心線)は、インナーレールの取付高さ(側板下端基準による寸法) + 5mm になり、その位置に墨線を引きます。
アウターレールの中心線が墨線に合うように、アウターレールのビス穴から墨線を確認し、位置を調整します。
(3段引きタイプは、中間レールを移動してアウターレールのビス穴を露出させ、位置を確認します。)
アウターレールの先端は、側板先端と面になる様にします。
インナーレールの取付同様に、千枚通しでビス止め箇所に印をつけ、ビス止め・固定します。
アウターレールの溝にインナーレールをはめ込み、引き出しを最後まで押し込み閉じます。
引き出しを出し入れして、がたつきや滑りが悪い・スライドレールが外れてしまうなどの不具合が無いか確認します。
今回使用したスライドレールには、脱着機能がついており、引き出しを取り外す事が可能です。
両サイドのインナーレールのレバーを押し込むと外すことが出来ます
ローラー・底付けタイプ
ローラータイプのスライドレールを使用する場合は前述の通り、引き出し本体を持ち上げて脱着します。
引き出しの脱着に必要な間隔(天板と引き出し上端の間隔)を考慮し、引き出しの高さを低くしておきます。
インナーレールを引き出し側板下部(側面と底面)に押し当てます。
ローラータイプのスライドレールには向きがあり、インナーレールのローラーが引き出しの奥側になる様に取り付けます。
インナーレールの先端を引き出し側板先端に合わせてセットしたら、ビス止め位置に千枚通しで印をつけます。
インナーレール側面と底面両方からビス止めします。
前述のベアリングタイプの取付と同様に、家具本体を組み立てる前にアウターレールを取り付けていきます。
アウターレールのローラーが前面に位置するようにして、ビス止め・固定します。
引き出し(インナーレール)をアウターレールのローラー上側から差し込みます。
引き出しを出し入れして、がたつき等の不具合がないか確認したら取り付け完了です。
底引きタイプ
引き出し裏側にインナーレールを取り付けます。
取付箇所にビス止めするための板厚がない場合は、補強材を取り付けます。
底引きタイプのインナーレールは、取付位置が左右にずれてしまうと、引き出し開閉時の不具合やスライドレール自体の破損につながります。
引き出しの幅に対して、センターの位置に正確にビス止め・固定します。
地板のセンターにアウターレールを取り付けます。
アウターレール先端を地板先端に合わせ、ビス止め・固定します。
底引きタイプは、引き出しの形状や使用状況、インナーレールの取付高さによって、引き出しの側板底面が地板に干渉する場合があります。
付属のスベリ鋲を地板手前側(引き出しの側板の真下位置)に打ち付けると、干渉部の摩耗・引き出し時の抵抗感を軽減することが出来ます。
アウターレールにインナーレールをはめ込んでいき引き出しを家具本体に取り付けます。
横付けタイプのスライドレールに比べ、底引きタイプはレールに対する負荷が大きくなる為、指定された耐荷重を厳守して使用する事が必要になります。
上吊りタイプ
”上吊りタイプ” は、アウターレールに連結しているL型の金具を天板の裏側へ、インナーレールは引き出し側板へ取り付けます。
上吊りタイプのスライドレールは、引き出しの右側取付用と左側取付用があり、逆にして使用は出来ないので取り付け時に注意が必要です。
天板裏側へ取り付けるL型金具は、上下方向にアウターレールとの固定位置を変えることが可能です。
L型金具の位置を変える事でスライドレールの高さを調整出来ますが、細かな高さ調整は出来ません。
L型金具でスライドレールの大まかな高さを調整したら、天板に対して引き出しが所定の高さに収まる様に、インナーレールの取付位置を微調整してビス止め・固定します。
引き出しの収まりに合わせて、天板裏側にL型金具を固定したら取り付け完了です。
アウターレールを家具本体の側板・仕切り板に取り付ける必要がないので、テーブルや机の天板裏に後付けが可能です。
取り付け時の注意点
スライドレールは、必ず左右対称の位置(取り付け高さを同じ位置にする)に取り付ける様にします。
左右で取り付け高さが異なる場合、スムーズに引き出せないばかりか、レールに強い負荷がかかり変形や破損につながります。
左右のアウターレールは、同じ高さに取り付けるのはもちろんですが、前後方向にずれなく取り付ける事も必要です。
左右のアウターレールの先端が前後方向にずれた状態で取り付けてしまうと、引き出しの開閉時に横揺れ(引き出しを真っすぐ開閉できず左右にずれてしまう現象)が発生し、スライドレールの破損につながります。
必ず、アウターレールの先端位置を合わせ、前後方向にずれなく取り付けるようにします。
※幅の広い引き出し(左右のアウターレール間隔が広い)の場合も、横揺れが発生しやすくなります。引き出しの底にスライドレールを追加して取り付けるなど、横揺れ防止の対策をとる必要があります。
高さのある引き出しは、スライドレールの取付位置によっては左右に倒れやすく、レールに負担がかかり破損の可能性があります。
スライドレールを引き出しの中央より上に取り付けたり、倒れ防止の為にレールを追加する必要があります。
アウターレールには、家具本体に多少の変形が起こってもスライドレールの動きに不具合を生じさせないための、アジャスター機能が付属しています。
アジャスター機能箇所は弾性があり、側板や仕切り板など取り付け面からアウターレールが多少内側に動くことが出来ます。
引き出し本体の幅は、「引き出し取り付け箇所の間口幅寸法 - スライドレールの厚み」になりますが、引き出し幅を導き出された寸法値ピッタリにすると引き出しが入らないorスライドレールの滑りがかたい状態が起こることがあります。
アウターレールのアジャスター機能を考慮し、引き出し幅を計算上の寸法値より若干狭くすると、スムーズな脱着・出し入れが出来ます。
横方向に並ぶ引き出しにスライドレールを使用する場合、取り付け位置の高さを同じにすると固定するビスが干渉してしまいます。
取り付け位置を上下方向にずらしたり、使用するビス穴をかぶらないようにする必要があります。
スライドレールを選ぶ際の基準
スライドレールは、引き出しの使用条件に合わせて、適切なものを選び取り付ける必要があります。
①耐荷重
引き出しに入れる内容物の重さに適した耐荷重のスライドレールを選ぶ。(内容物が重くなる場合はベアリングタイプ、比較的軽量な場合はローラータイプを使用するなど)
②引き出しの奥行
引き出しの奥行寸法に合った長さのスライドレールを選ぶ。
③引き出しの開き具合
引き出しをどの程度開けるようにするのか、移動距離に適したスライドレールを選ぶ。(完全スライドタイプ or 3/4スライドタイプ)
④脱着機能の有無
家具本体側と引き出しを脱着する必要があるかどうか?(安価なスライドレールはインナーレールとアウターレールが一体型の場合があるので注意が必要)
⑤必要な機能
セルフクロージング機能や引き出し閉時の保持機能など、必要な機能が備わっているかどうか?
①から⑤までの条件を基準として、使用するスライドレールを選択します。
まとめ
今回はスライド部分に使用される金物、”スライドレール” について、種類と取り付け方法について説明しました。
スライドレールを使用する事で、すりざんやつりざんによる引き出しに比べ、作業工程の簡略化が可能で、精度の良い引き出しを作ることが出来ます。
ただし、スライドレールの厚み分引き出しを小さくせざるを得なかったり、正確な位置に取り付けを行わないと引き出しの開閉が出来なくなったりします。
DIYで引き出しを作るには便利なスライドレールですが、取付条件に合った使用と正確な取り付けをする必要があります。
引き出し全般(構造や種類、作り方)に関して詳しくは、引き出し(抽斗)の構造と種類、作り方とは? の記事を参照してください。
参考にしてみてくださいね。