扉を取り付ける際に絶対に必要な金物、丁番(ちょうばん)。
数ある丁番の中から、キャビネット(棚)の扉などによく使用される “スライド丁番” について、取り付け方(使い方)と種類について詳しく説明します。
今回はスガツネ工業・ランプ印のスライド丁番を例に説明していきます。
スライド丁番とは?
”スライド丁番” とは、扉の開閉を担う丁番の一つで、扉に取り付けるスライド丁番本体と側板(または仕切り板)に取り付ける取付座金(マウンティングプレート)の2つのパーツで構成されています。
スライド丁番の特徴
スライド丁番はキャビネット(棚)の内側に取り付ける為、扉が閉じてる時には外から見えません。
スライド丁番を使用する事によりスッキリとした外観に仕上げる事が出来ます。
スライド丁番は扉に丁番本体を、側板に取付座金をそれぞれ取り付けたら、丁番本体を取付座金にかぶせる様にはめ込みます。
丁番本体・取付座金の取付が完了していれば、工具要らず・ワンタッチで簡単に扉を取り付ける事が出来ます。
スライド丁番は、丁番本体・取付座金に付属している調整ネジを回して、扉の位置を前後・左右・上下に微調整する事が出来ます。
他の丁番は位置決めや取付を正確に行わないと、扉の開閉に支障が出たり、位置がずれたりしてしまいます。
スライド丁番は後から微調整が出来る利点があり、DIYにおいては便利な丁番と言えます。
スライド丁番は4つ以上の軸があり、非常に複雑な動きをして扉の開閉を行います。
横に連続して並ぶ扉は、隣同士の扉が干渉することなく、開閉が可能です。
スライド丁番の取り付け方法・調整と脱着の仕方
基本の取り付け方
スライド丁番本体を扉の内側に取り付けていきます。
丁番の裏側は出っ張りがあり、扉に出っ張り部分が収まる穴をあけ取り付けます。
扉の所定の位置に穴あけの墨付けをします。
スライド丁番は、扉の厚みと間隔A(扉側面と穴の端部間の寸法・スガツネ工業のスライド丁番ではカット量と呼ばれる)の数値により、開閉時に扉同士の干渉が起こってしまう場合があります。
スライド丁番の説明書には、使用する扉厚・構造に適した間隔A(カット量)が表示されています。
穴の中心位置は、扉側面から「穴の半径+適切な間隔A(カット量)」内側に入った場所になります。
穴あけは貫通させず所定の深さまで切削するので、止め穴加工に適した木工用ドリル(ボアビット・フォスナービット)を使用します。
穴あけの大きさは種類やメーカーによって異なりますが、主に35mm・40mmの穴をあけます。
インパクトドライバーにビットを装着し、穴あけしていきます。
ノギスで確認しながら、所定の深さまで切削します。
木工用ボアビットには、墨に合わせるセンター部分が実際の切削面より尖って出っ張っています。
穴をあけると真ん中にくぼみが出来ます。
扉の厚みが薄い場合、所定の深さに穴あけすると、くぼみ部分が貫通し扉の表に穴があいてしまう事があるので注意が必要です。
今回はインパクトドライバーに木工用ボアビットを装着して止め穴加工を行いましたが、”ボール盤” を使用すると、簡単に正確な止め穴加工をする事が出来ます。
ボール盤の使い方等に関しては、 ボール盤の構造と使い方とは? の記事を参照してください。
スライド丁番本体を下穴にはめ、スコヤをあてて扉に対し垂直になる様にセットします。
丁番はビス止めしますが、ビス穴のセンターからずれてビス止めすると、せっかく垂直にセットした丁番がずれてしまいます。
ビスを正確な位置に打ち込む為に、千枚通しでビス穴のセンターにガイドとなる印(くぼみ)をつけておきます。
千枚通しで付けた印をガイドにビス止めしたら、扉にスライド丁番本体の取付完了です。
側板(仕切り板)に丁番の取付座金を固定します。
所定の位置に墨付けし、千枚通しで印(くぼみ)をつけます。
印(くぼみ)をガイドにビス止めしていきます。
取付座金には前後の向きがあるので間違えないように固定します。
今回紹介しているスガツネ工業・ランプ印のスライド丁番には、取付座金(マウンティングプレート)の取付治具があります。(治具の前後にV溝が付属している)
スライド丁番取付位置の中心に墨線を引き、その墨線に治具のV溝を合わせ、取付座金(マウンティングプレート)をはめ込むだけで取付位置が正確に決める事が出来ます。
※取付治具はインセット(後述)には使用できません。
取付座金にスライド丁番本体をかぶせる様にはめ込んだら、取付完了です。
調整と脱着の仕方
スライド丁番には3ヶ所調整ネジがあります。
それぞれ “かぶせ量調整ネジ” “上下調整ネジ” “前後調整ネジ” となっています。
調整の際は、必ず手回しのドライバーで調整可能範囲で微調整します。(ネジ山の破損など調整機能不良が起こる可能性があるので、電動ドライバーなどパワーが強いドライバーを使用しての調整は行わないでください。)
調整ネジを回して微調整する際は、他の2ヶ所の調整ネジが固定されたまま調整する事が可能です。
かぶせ量調整ネジ
かぶせ量調整ネジは、扉と側板(仕切り板)の重なり具合(かぶせ量)の微調整をする為の調整ネジです。
ネジを右に回すとかぶせ量が多くなり、左に回すと少なくなり、扉を左右方向に微調整する事が出来ます。
上下・前後調整ネジを固定したまま、同一扉それぞれの丁番のかぶせ量を変える事で扉の傾き調節も可能です。
上下調整ネジ
上下調整ネジは、扉を上下方向に微調整する為の調整ネジです。
取付座金に取り付けられており、ネジを時計回りもしくは時計回りに回すと、可動部分が上下します。
座金の可動部分が上下に動くことで、取り付けられているスライド丁番本体も上下に動き扉を調整できる仕組みです。
前後調整ネジ
前後調整ネジは、扉を前後方向に微調整する為のネジです。
調整ネジを時計回りもしくは反時計回りに回すと、スライド丁番本体が前後し、扉の前後調整が出来ます。
脱着機能
スライド丁番本体(扉側)と取付座金(側板・仕切り板)の取り付けは、座金の前後の溝に丁番本体のバーとフックがはまる事で固定されます。
取付方法は、まず取付座金(側板・仕切り板側)手前側の溝に丁番本体のバーをはめます。
バーがはまった状態でフック部をカチッと音がするまで座金側に押し込むと、座金の溝とフックがかみ合い取付が完了します。
取り外しは、フック部のレバーを引き上げます。
レバーを引き上げるとフックが開き、座金の溝から外れます。
フックが外れたら手前に引くとスライド丁番が外れます。
スライド丁番の種類と取付方法について動画で見たい人は、以下の動画を参考にしてください。
スライド丁番の種類
スライド丁番は、 “全かぶせ” “半かぶせ” “インセット” の3種類に分けられます。
それぞれ側板(仕切り板)に対する扉のかぶせ具合によって分けられています。
全かぶせ
全かぶせとは、キャビネット(棚)の側板に扉を取り付ける場合に使用されるスライド丁番です。
扉が閉じている時、側板に扉がほぼ全部かぶるため “全かぶせ” と呼ばれます。
今回使用しているスガツネのスライド丁番の全かぶせは、かぶせ量の数値から “19mmかぶせ(厚扉用は26mmかぶせ)” の名称で販売されています。
半かぶせ
半かぶせとは、キャビネット(棚)で仕切り板がある連続扉を取り付ける場合に使用されるスライド丁番です。
扉が隣り合うため、仕切り板の幅の半分がかぶせ量になり、“半かぶせ” と呼ばれます。
連続扉には、仕切り板の両側に丁番を取り付ける “両吊元” と片側のみに取り付ける “片吊元” があります。
両吊元の場合、取付座金のビス同士が干渉する恐れがあるので、スライド丁番本体・取付座金の位置を上下方向にずらして取り付ける必要があります。
今回使用しているスガツネのスライド丁番の半かぶせは、かぶせ量の数値から “9mmかぶせ(厚扉用は16mmかぶせ)” の名称で販売されています。
インセット
インセットとは、取付座金を取り付ける側板(または仕切り板)の木端が全面露出し、側板(または仕切り板)の内側に扉をおさめる場合に使用するスライド丁番です。
扉がキャビネット(棚)の内側にはめ込むように収まる為、取っ手等が開閉時必要になります。
インセットの取付座金の位置が、全かぶせ・半かぶせの場合よりキャビネット内側に下がった所になります。
インセットの場合、扉を閉めた時に受け止める部分が無いため、マグネットキャッチなど扉の受を取り付ける必要があります。
その他の機能
キャッチ機能
スライド丁番には、キャッチ機能付とキャッチ機能無しがあります。
キャッチ機能とは、ある程度扉を閉めていくと、スライド丁番に内蔵されたバネによって閉まる方向に力が加わり、扉を閉めた状態を保持してくれる機能です。
マグネットキャッチの様な扉を保持する物を取り付けなくても、ある程度扉を閉めた状態を保持してくれます。
キャッチ機能付のスライド丁番を使用すると、扉が閉まる際のバネの力が強く、扉と取付枠のぶつかる音が気になる場合があります。
クッションゴムを扉やキャビネット本体に貼り付けると、音を軽減する事が出来ます。
ダンパー機能
スライド丁番には、“ダンパー機能” が内蔵されている物があります。
ダンパー機能とは、扉をある程度閉じていくと、途中からゆっくりと自動で扉を閉めてくれる機能で、扉がぶつかる音を軽減してくれます。
キャッチ機能付のスライド丁番を使用する際、後付けタイプのダンパーを使用すると、キャッチ機能を損なわずゆっくりと閉まるので、扉の音を軽減してくれます。
スライド丁番の種類を選ぶポイント
スライド丁番には様々な種類があり、選択する際のポイントを紹介します。
- 扉がかぶせ扉仕様かインセット扉仕様、どちらか?
扉を閉めた時、側板(仕切り板)の木端面と扉の内側面が向き合うのが “かぶせ扉仕様” 、側板(仕切り板)の内側面と扉の木端面が向き合うのが “インセット扉仕様” となります。
- 全かぶせか半かぶせか?
かぶせ扉仕様の場合、基本として側板に取り付けるのが “全かぶせ” 、連続扉の仕切り板に取り付けるのが “半かぶせ” になります。
- キャッチ機能付かキャッチ機能なしか?
- 扉の開き角度は?
扉の開き角度がどの程度必要か、それに応じた丁番を選びます。
- 必要な丁番の数は?
扉の寸法が大きくなるにつれ、使用するスライド丁番の数も多くなります。
あくまでも目安として(扉の幅、重さなどの条件によっても変わる為)、扉の長さ寸法が900mmまでは2個、1600mmまでは3個、2000mmまでは4個、2400mmまでは5個、程度の数使用します。
上下(端部)の丁番間の寸法をひろく取った方が強度が増します。
まとめ
今回は、キャビネット(棚)の扉によく使用される “スライド丁番” について、取り付け方(使い方)と種類について説明いたしました。
丁番を正確に取り付けなければ、扉の位置や開閉に支障が出てしまいます。
その点スライド丁番は丁番を取り付けた後に調整が出来るので、DIYにおいて大変便利な丁番と言えます。
(ただし、他のメーカーや安価なスライド丁番は調整機能が無かったり、調整方向が限られていたりするので注意してください。)
スライド丁番の種類と取付方法について動画で見たい人は、以下の動画を参考にしてください。
その他の種類の丁番に関しては、蝶番(丁番)の種類と使い方、取り付け方法とは?まとめ の記事を参照してください。